第13章 Re:Start【緑間真太郎】
今日もいつもと変わらない、自分のデスクで自分に与えられる仕事をこなして、定時に帰宅する。
そんな日になるんだとばかり思っていた。
「おはようございます」
「おはよー」
「おざーす」
「「おはようございます」」
この会社に入って6年
債権管理部の審査課の係長になって部下もできた。
民間の調査会社の出す評点で、企業評点55点を超える企業を優良、55点未満50点を準優良として、それらの企業からの取引要請があった際に取引口座開設の稟議を申請するのが私の主な仕事。
もちろんこの不景気で50点を割る企業も多く、40点までの企業であれば、将来性や現在の資産状況を調査したうえで口座開設の稟議を申請することも少なくはない。
ただ、残念なことに40点を割っている企業については、お取引をお断りしなくてはならず、その連絡は私と課長補佐が主に担当することになっている。
「大河内、山梨の十条器械だけど、評点38だわ。これ断りの連絡できるか?俺13時の新幹線で別件の現地調査入らなきゃいけなくて、ちょっと連絡頼みたいんだわ」
「承知しました。担当営業にも伝えて、十条さんは私の方から今回は審査不通過の旨連絡しておきます」
取引をと言われたら、取引はさせてもらいたいと思っているし、断りを入れるときにはもちろん申し訳ないとも思っている。
だけど会社という組織を維持していくには、リスクのある取引をしないというのも一つの手段であり、うちのような老舗といわれる企業は、既存の顧客を大切にして、新規は条件のいいものを取るというやり方は決して珍しくない。
「悪いな」
「いえ、お気をつけて」