第14章 Pledge【青峰大輝】
「結婚してほしい」
彼にそういわれた時、私は迷うことなくそれを受け入れた。
結婚して家庭をもって、出来たら子供をもって。そんな風に考えていた。
「うちの両親は法医学とか言っても分かんないからさ、医者って言ってある。医者だってこと以外言わなくていいから」
顔合わせの前彼に言われたこの言葉に、何となく違和感はあったけれど、結婚願望もあったし彼と結婚したかった私はその違和感に目を背けた。
彼のご両親は、結婚後も医師を続けるつもりだといった私に、二人で協力してやっていけばいいと好意的に受け入れてくれていたし、お医者さんなんてすごいわねと褒めてもくれていた。
義母も義父も穏やかな雰囲気で、適度な距離感を保てれば、世の中にあるような嫁姑問題や、義実家問題は起きにくい関係が築いていかれると思っていた。
彼は外銀の資産運用戦力部勤務、あたしは全国的に人手不足の解剖医。
ゆっくり時間をかけて結婚式の用意をする体力と時間がなくて、仲のいい友人と親族を呼んで小さくやりたいことを伝えると、彼も賛成してくれて、互いの両親も二人が決めたことならと賛成してくれた。
「親しい人しか呼ばないから、プロフィール紹介はなしにして、歓談時間多くしないか?」
「うん。そうしたい」
「なにかやりたい事とかある?」
小規模にしたとはいえ、結婚式をするならそれなりにやることは多くて、お互いに仕事の合間を縫って連絡を取り合いながら、できる方がプランナーさんに連絡を取るという方法で何とか準備を進めていった。
職場には結婚の報告と、式は身内だけでやる事を伝えた。
法律では旧姓を使って医師活動を行う事はできるけれど、うちの職場では検案書記載の名前は戸籍と一致させなければならないルールとなっていて、医師免許を書き換えて職場でも新姓を申告したことで、かかわりのある職員や警察関係者から祝福の言葉をいただいた。