第1章 貴女の隣
彼女は同じバーの常連だった。
名前は聞いたことがない。
前に友達らしき人にと呼ばれていたから、それが本名かもしれない。
彼女とはよく会う。いつも隣の席に座るんだ。
いつも長い黒髪をおろして、紅い口紅を塗っている。
僕より少し年上らしかった。
それしか知らない。
彼女も、僕のことは何も知らない。
この関係は心地よかったが、最近もっと知りたいと思うようになっていた。
僕は彼女のことが好きなんだ。
彼女はレモンの入っていてラム酒でできたフィズを繰り返しお代わりしていた。
手元には少しずつ食べていたチョコレートがまだ余っている。
「こんな時間にチョコとお酒なんて、太るよ」
「うるさいな、明日は休みなんだから、これくらいいいでしょ。」
そう言って僕を睨み付けると彼女は綺麗な指で小さなチョコレートを摘んだ。
今日はまだ来て早いのに、もう3杯も飲んでいる。
「何かあったの」
そう問いかけると彼女は気だるげなため息を吐いた。
それだけで答えのようなもので、彼女はポツポツと話し始めた。