第1章 理由その1
「これ以上近付いたら、この建物は倒壊する!」
そう叫び廃ビルを小突きながら、眼下で様子を伺いつつこちらを見上げているヒーローや警察を一瞥した。
住宅地に聳えた、過去の栄光の痕跡を残したままの廃ビル。
昔ここには地域密着のショッピングモールがあって賑わっていたらしいが、不況のせいであっという間に廃墟と化した。それが住宅街の中という立地のせいでなかなか取り壊しが出来なかったらしい。
そんな廃ビルにもぐり込むのなんて簡単。ショッピングモールの比較的小さい棟を私の個性で倒壊させるとすぐに騒ぎになった。
5階建ての屋上に上り眼下を見下ろす。軽く足をタタンと鳴らすと地震が起きた。
私の個性で足元は沢山のひび割れを起こし地面が隆起している。放っておいてもこのままだといくらもせずに建物は崩壊するだろう。
こんな住宅街で準備もせす建物倒壊したら周りにも被害は大きいはず。
「ヴィラン! お前はこんな廃ビルを占拠して何がしたいんだ!」
ヒーローの一人が叫んだ。見たことも無いヤツ。違う、こいつじゃない。
「私の要求はたった一つ!」
もう一度周りを見回す。
「オールマイトはまだ!?」
ああ、と一人陶酔する。私の愛しい人はまだ来ないの?
私はきっと生まれた時からオールマイトのフォロワーだったのだと思う。気付いた日から私は彼の虜だった。
毎日の様に現れる大勢のヴィラン、それをやっつける沢山のヒーロー達。
その中でも『彼』は特別だった。
颯爽と登場し、事件を解決するオールマイト! その姿に憧れた者も大勢居たであろう。
私もその群集の一人だったけど、私は違うって幼心にずっと思っていた。
オールマイトの特別になりたい、そうずっと思っていたのだ。
ヒーローのフォロワーが一番やりたい事って何だと思う?
それは勿論ヒーローに会うこと!