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The one that got away.

第9章 ファントム・ルージュ





《リン様》

『…何?ジェイ』


爆豪をこのビルから遠くの安全な場所に移動させた。それは他の皆も一緒だ。……いくら此処で何が起ころうとも、被害は受けない距離だ


《私の主は貴方だけです》


機械声が爆破の音に紛れながらもハッキリと耳に響く


《私はAIであり感情はございません。そして命令には従うようにプログラムされています。ですが》


『ジェイ、やめて』


ジェイが何を言いたいのかは検討がついた。少し前にトニーにも聞いたことがあった。

AIと呼ばれる彼らには感情をプログラムしていない。だが稀に、それに近いものが自らの主に対して抱くことがある。と


『私は、貴方のこと大好きよ。ねえジェイ、いつも傍に居てくれて……私を支えてくれてありがとう』

《リン様》

『だから、それ以上は何も言わないで』


お願い


そう言うと彼は黙った。それを確認し、巨大なスクリーンに写るダウンロード65%の文字を見つめた


長かった、ようで短かった

やっとすべてを終わらすことができる…のに

何故か満ち足りない気がしてならない


《1つ、理解できないことがあります》

『……へぇ?』


驚いた。世界中のありとあらゆる知識を有するこのAIにも分からないことが?


《はい。何故リン様は一人でこのようなことをしたのですか。過去のデータからするとピーターと協力した方が成功率はあがります。そしてそれには情報を共有した方する必要があります》

『確かにそうだったけど……勝手なことした私のこと責めてる?』

《責めてはいません、ただ純粋な疑問です。何故ならリン様は》


今回の事件の真相を"知っていた”

それなのに"本当の犯人”を泳がせていた


《私には理解しきれません》


どうか考え直して下さい。とでも言いたそうな無機質だがどこか咎めるようなその声に凛はため息をついた

自分はAIと言い切るジェイだが、凛にとっては家族同然だ。

トニーは理解しないふりをするけど彼もきっと分かっている。なんたって彼らを最も愛しているのはトニーだからだ

ジェイたちには感情がなくても、心がある

だからこそ震える唇で紡ぐなきゃいけない


『ジェイ…………ミュート』


私は"ファントム・ルージュ”なんだから


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