第1章 私のこころの行方
『しばらくして雨も止み、私達の濡れた着物も大分乾いたので、その方に丁寧にお礼を述べ、名前を伺ったのですが、全く教えていただけなかったのです。
仕方がなく、本当に礼を欠いてしまう事が心残りで、後ろ髪を引かれる思いのまま、その方と別れ、その日は無事家にたどり着くことができましたが、父には、その様な事があったことなど話すことはできませんでしたが、母には今日の出来事を全て話しました。
もちろん、母には、酷く叱られてしまいました。
ですが、それよりもあの時助けて頂いたお礼ができなかった事がずっと心に引っかかっておりました。
その後、3月程経ったある日のことです、、、、。
私が弓の稽古を終え屋敷に帰る途中で少し甘いものが食べたくなり、甘味屋に立ち寄った時その甘味屋に、似つかわしくない大柄な武士の方がおりました。
特に気にかけることも無く大好きなみつ豆を食べようと、店主に注文をし、食べ始めた時に、その武士が私に声をかけて来ました。』
『要するに、女漁りをしていた奴に声を掛けられた。と言うことか。』