第1章 私のこころの行方
『失礼いたします。
茉莉花様をお連れいたしました。』
広間の襖を開き、景家に促され入室すると部屋の中には、既に謙信を始め信玄など皆が席についていた。
茉莉花は、美しい所作で
『遅くなりまして、大変申し訳ございません。』
と、指をついて頭を下げた。
ただでさえ美しい容姿であるのに所作まで美しい。
なおかつ、凛と通る声が茉莉花の聡明さを物語るかのように、その場に居並ぶ武将でさえ目を逸らすことが出来ないのである。
謙信は、満足げに
『茉莉花、こちらへ来い。
お前の席は、俺の隣だ。
俺に酌をしろ。』
『はい。』
そうして茉莉花が春日山城に着いてはじめての夕餉が始まった。