第1章 私のこころの行方
『ほぅ、、、、
越後の龍のみならず、甲斐の虎とも顔見知りとはな、、、。
面白い。』
とニヤリと口端を上げた。
『そうして、3月前のお礼をお伝えし、お名前も知る事ができ、一安心しました。
ですが、家に帰り、落ち着いてよく考えると謙信と言う名は、、、
この世にたった一人、越後の龍と、呼ばれる上杉謙信。
その人だけだと。
それも、自分の父は織田傘下の武士ゆえ信長様が天下布武を成し遂げた今でも、不穏な動きが全く無くなったわけでは無いと、
フツフツとその地下では謀反や反逆の機会を狙っている輩が多いと言う事は知っていました。
ですが、そんな中において、異例なのは上杉謙信は、戦が心底好きで、信長様を打つ事に重きを置いていると言う事も、少しでございますが、父より聞いておりました。
その、織田傘下の人間である私にすれば信長様の宿敵として捉えるべきの謙信が、私の命の恩人である事が、私の中でどう捉えてよいものかその時は分らないままでした。
その後、幾度となく、偶然にも城下で謙信様とお会いする機会も増え、その度に何故か謙信様は私に食事や、茶屋に同席する事を希望されたのです。
私は、助けて頂いた事もあり数度お付き合いさせて頂きました、最初は、ただ隣でお酌をするだけでしたが、ふとある時、私のことを知りたいと謙信様が言われたので、少しづつですが私が多少武術を嗜んでいる事、馬に乗り遠駆けに行く事が好きであることなど他愛もないお話をさせて頂いたのですが、その時に謙信様が、
『ならば、今度この俺が、お前に稽古をつけてやろう。
そうして、お前に馬を送ろう。
俺が手塩にかけて育てた2頭の馬のうちお前が乗るのに相応しい、白毛の馬だ。
名は、蒼(あお)と言う。
その馬をお前にやろう。
それで俺と共に遠駆けに出かけるぞ。』
『いえ、、。
そんなことまでしていただかなくても、家には、父の馬もおりますし、、、
お気持ちだけ頂いておきます。
でも、剣術の稽古は是非、お願いしたいのですが、謙信様はお忙しいと思いますので、お時間があるときに、よろしくお願いします。』
と、美しい所作で頭を下げ、そうして大きな美しい瞳で、謙信を見つめやんわりと今までで一番綺麗な笑顔で微笑んだ。