第8章 狙われた彼女
「そういえば、何で幸紀は毛利先生に依頼を断ったんだ?」
「あの矢が切っ掛けかな。」
「矢に何かあったって事か。」
「透が庇ったから愛自身に怪我はなかったけど、どちらにせよアレは単なる脅しだ。少し掠める程度で済んだだろ?」
「……確かにな。」
「元々、愛を殺そうなんざ思っちゃいないのさ。そんな事したら葉月家の名に泥を塗る様なもの……」
幸紀の口振りからして、犯人は分家の人間だと理解出来た。
しかし、それが何故小五郎に依頼取り消しを言ったのか分からない。
「……愛なら分かってるんじゃないかい?」
「そうなのか?」
『……えぇ。あの脅迫状には、この家の秘密と私の事が書かれてた。秘密は恐らく兄さんが孤児院出身の養子だという事になると思うわ。そんな事知ってるの私達本家と分家しか知らない……当事者の1人であったお祖父様は亡くなられてる。』
「当主が血筋すら繋がってないと知られれば今までの活動もパアになる。俺は失脚……愛も当主代理として動く事があっただけに、その地位を追われる。そんな事をして得するのは分家もそうだけど、その分家に婿として来た奴等だ。」
思っていた以上に分家は動いていたのだ。
「ただ……真理子さんと夏紀さんは除外されるな。」
「あの2人こそ怪しいだろう?」
「最初は俺も疑ってたよ、あの脅迫状は2人の自作自演なんじゃないかってね。だけど秘密という言葉に2人は顔色を変えた。」
『……彼女達の頭に過った秘密は私達の考えてる秘密とは違う。それこそ……父さん達の事でしょうね。』
愛の両親は世間では自殺と発表されている。
その真実は分家の手による殺害。
ギュッと愛の手を握って安室は口を開こうとした。
その口から言葉は発せられなかった。
睦月の手によってー
「……お静かに。誰か聞き耳を立てております……これ以上の会話は危険かと思われます。」
「……分かった。」
『……じゃあ、私は部屋に戻って寝るわね。』
「部屋まで送るよ。」
『大丈夫、透は折角だから兄さんと話してて。』
「……気を付けて。」
『……ありがと。』
幸紀の部屋から出ていく愛の背中を見つめて安室は不安感が募った。
まるで手の届かない所に行ってしまいそうな気がした。
その予感は当たり、翌朝彼女の姿は忽然と消えていた