第1章 1部
「ごごごっごめん! 翌日くしゃみしてたし風邪とかまでは移すつもりじゃなかったんだけど…! ってそうじゃなくて!! …あの…、カミナ…?」
大慌てで頓珍漢な言い訳と真っ赤な顔を向けると、カミナが肩を震わせている。
「あっはっは! 風邪ってなんだよ! なんだお前、俺に風邪移す気であんな事したのか?」
「ちっ…!! 違うよー!!」
「ばぁっか野郎。冗談だ。…で、どういう意味だ?」
「~~~!!!」
再び赤く茹で上がる私の頭をカミナがぽんぽんと叩く。
「次でいいぜ。次に会った時に聞かせろ」
次? と間抜けに口を開ける私に、我慢が出来ないとカミナが噴き出す。
「俺はこの街から出て行くが、まだあばよじゃねェ。おれはまだまだこの世界から居なくならねェよ」
また今度があるんだよ、と言いながらカミナが私から離れた。
「たまには…帰って来る?」
胸元をぎゅうと握り、私はカミナを見上げた。
「おう! 俺の帰って来る場所はここだ!」
カミナが人差し指を天に向かって指す。月の下、そして太陽の下。
「俺はそろそろ行くぜ。、いい女になれよ!」
「カミナも…いつもかっこいいカミナで居てよ!」
「ああ。俺様はカミナ様だぜ。泣く子も黙るグレン団…じゃねェ。大ッ! グレン団の鬼リーダーたァこのカミナ様の事よ!」
久々に聞いたカミナの名乗りに熱くなった胸から零れる高鳴り。せり上がった涙をごしごしと拭いて、いつかのシモンのように私もぐいと上を向く。
「うん、私も大グレン団だよ!」
「そうだな! シモンとガキ共とこの街はお前に任せたぜ! 大グレン団の!!」
朗らかに笑う彼は、月の下、仄かに光っているように感じた。
大好き。カミナが大好き。
カミナの背中を追い掛けて、俯いて、また前を向いて、空を見上げられるようになった。
月を背にした彼に、私も特大の笑顔を向ける。
「…任せて!」