第1章 1部
「…お前はこれ以上俺に縛られてちゃいけねェ」
頬を触る指が掌になりそっと私の頬を撫ぜる。嬉しくて私は微かに震えるが、カミナが笑うので私も頑張って微笑んだ。
「これは俺の勘ってやつだが。お前も俺もまだなにかやる事がある。そんな気がする」
「…やる事?」
「ああ、前にも言ったな。俺がこの世界に帰ってきたのにはきっと理由がある」
そしてカミナは反対の手で私の顔を指差した。
「お前にもな!」
とびきりの、私が好きになったカミナの笑顔で、私だけに笑ってくれるカミナが、そこに。
「……うん、分かった」
小さく返事する私の頭を、指差していた手でわしわしと撫でた。
頭を撫でられるのは、カミナにされる好きな事のひとつ。
カミナに再会してから、たくさんたくさん撫でて貰った。
「何笑ってんだ?」
不思議そうにカミナが私の顔を覗き込む。
「うん、カミナにいっぱい頭撫でて貰ったなあって」
「そうか」
「カミナにいっぱい色々して貰ったな…って」
「…俺もだ、」
カミナが目を細めた。名を呼ばれ、急に真剣味を帯びた声に私が戸惑う。
「…なあ。お前が風邪引いた時があっただろ?」
「う、うん。カミナに看病してもらったね」
「ああ。あの時のこれ」
カミナの顔が近付く。
吃驚する暇も無く、カミナの唇が私の口に触れた。
一瞬だったと思う。
けれども、永遠だった。
「…カッ、カミナ…っ?」
離れた唇の感触が生々しくて。
でも夢かと思って。どもる口調と乾く喉に慌ててしまう。
「…なあ。これ、どういう意味だ?」
見上げたカミナも耳を赤くしていた。でも目線はしっかりと私を射抜いている。
「風邪の時、って…あの…カミナ。あの時…起きてたの…?」
「ああ」
「――――っっっ!!!!」
ぽかんとしていた私の顔と耳と首と、全部が真っ赤になる。
あの夜の、内緒のキスが。
カミナが起きてた、なんて。