第1章 1部
「…でもまだ言えない。私は頑張ってこなかったから、ずっと頑張っていたあの人にはまだ言えない」
大きく息を吐き、俯き呟く私にニアが微笑み首を振る。
「さんは頑張り屋さんです」
静かにニアが言う。真逆の事を言われ俯いていた顔を上げた。
「ニア…私頑張って来なかったって言ったじゃない。全然頑張ってなんていないよ」
「いいえ違います。さんはずっと頑張っていました。近くに居て見ていた私はそう思います!」
「…そっか」
ありがとう、と呟いた。
「でもやっぱり言えない。もっと胸を張って言えるようになりたい」
「さんが言いたくなったらきっと自然に言えます。大丈夫です」
「…うん。ニアに相談して良かった。ありがとう」
「私も。言ってくれてありがとう、です」
薄暗い公園で花が微笑む。
ニアだからこそ、信じられる気がした。
ニアと別れ、自宅に戻る。
「よう」
家の前でカミナが扉に寄り掛っていた。私に気付き手を挙げる。俯きがちに歩いて来た私がその声に顔を上げた。
期せずそれは、私と彼の再会した時の様子によく似ていた。その事に気付き涙腺が緩む。
「おい、どうした?」
あの時と違うのは、彼が私にしか見えないと知っている事。
…いつの間にか月が出ていた。
月明かりに浮かぶ彼のシルエットが余りにも見慣れすぎてしまっていて、愛おしさに胸が苦しくなる。
「カミナ…」
「何だ?」
きょとんと首を傾げる彼に、我慢していた涙が零れそうになる。
やっぱり諦められない。この恋を諦める事がどうしても出来ない。
ニアの言う通りだ。気持ちは押し込めたり諦めたりなんて、気楽には出来ないってとっくに知っていた。
こんな気持ちでカミナについて行くには、私は余りにも子供過ぎる。
「…カミナ、ごめん」
「……」
唐突に謝る私にカミナが怪訝な顔をする。カミナが何かを言う前に私は言葉を続けた。
「私、行けないや」
「」
「一緒に行けない」
「…」
そう言って精一杯の笑顔を向ける。驚いたカミナの顔がぼやけて滲んだ。