第1章 1部
「…さんはその人の事が本当に好きなんですね。私もその気持ち少し分かります。好きな人は大事にしたい。私もシモンが好きだから」
私の手を握りながらニアが頷く。
「大事な人が悲しむ事はしたくない。それは誰だって一緒です。私思うんです。さんが諦めてしまったらさんの好きなその人もきっと悲しむと思うんです」
「…そうなのかな」
目を閉じカミナを思い出した。天を突く程強くて逞しい、だけれどもとても優しいカミナ。
地上に出て獣人と戦うという軌跡を作ってくれたカミナ。眠れない私を抱き締めて頭を撫でてくれたカミナ。
『、お前を世界のどこまでも連れてってやらァ!』
生きている時にそう言って、空の天辺みたいに笑ったカミナが。
「…さん」
「あ…」
瞼が熱い。ニアの声に閉じていた目を開けると目の前がぼやけて、熱いものが頬を伝う。
諦めたくない。
喩えカミナが誰を好きでも。彼の事を好きだという人が居ても。
私はカミナを好きだという気持ちを手放したくないんだ。
「…さんにはきっと少しだけ準備が必要なんじゃないでしょうか?」
「うん、分かってる。私はどうしようもなく子供だ」
早く大人になりたい。カミナに釣り合うような大人になりたい。一人でも前を向いて進んでいける大人になりたい。
憧れだった彼や彼女に並べるような人間に。
やっと分かった。漸く気付いた。
それが私のやるべき事。
カミナに付いて行っても良いのだろうけど、きっとそれだけじゃ駄目。
私は一年間ただ無意味に生きて来た。ちゃんと前を向いて進めるようにならなくては、カミナに付いて行くことなんて出来ない。
「…私、あの人が好き。恋じゃないかもって思ってたけど、ちゃんと好き」
そうしてまた一つ気付いた。
私は言葉に出して「カミナが好き」と言った事が無かった。その事実に驚き目を剥くが、一度目を閉じ深呼吸した。