第1章 1部
「うん…良かったし嬉しかった。でもね、その人は私の友人の事が好きで、友人もその人が好きだったの」
そう、カミナはヨーコが。ヨーコはカミナが好きだった。
先日はもうお互いが吹っ切れたように見えたが、もし私の立場にヨーコが居たらどうだ? きっとまたヨーコはカミナを好きになる。必ず。
カミナだって、本当はヨーコに見えれば良かったのに。と私は卑屈になってしまう。
…これだって誰にも言えなかった、良くない感情。
「事情があって友人は彼に会えないんだけど、私は諦めなくちゃって思ってる。…どうやったって私は友人に勝てないから」
自嘲気味に笑う私の目をニアが覗き込む。その真顔に怯んだ。
「さん。勝てない、って何ですか?」
「…っ!」
ニアの言葉に息を呑み、思わず口元を押さえる。
「気持ちに勝ち負けってあるんですか? どうしてですか? さんはどうしてそのような勝ち負けを決めたんですか?」
ゆっくりと疑問と投げかける真剣な顔をしたニアに、私は目が泳いだ。その私の顔を真っ直ぐ見つめ、ニアが続ける。
「さんの気持ちに勝ち負けなんてありません」
「……」
そう言い、ニアが微笑んだ。不思議な色をした目の色がまた変わる。
ニアから目を逸らし私はまた俯いた。
「…そうかもしれないけど、やっぱり諦めなくちゃいけないんだよ」
「駄目です。さんは諦めちゃいけません」
ニアが毅然と言い放つ。凛とした声に思わず噛みついた。
「何で? だって二人とも好き合ってるんだよ!?」
「だからってさんがその人を諦める理由にはなりません」
「だって…」
「気持ちは押し込めてはいけません」
夜の公園にニアの静かな声が響いた。激昂し浮かせかけていた腰を弱々しく下ろす。
「私…諦めなくていいのかな…」
小さく呟く私の声にニアも小さく答える。
「いいんです」
あっさりと簡潔に返事をしたニアに思わず笑みが零れる。私が笑ったのを見てニアもまた微笑んでくれた。