第1章 1部
太陽の側は暖かいが、時に近付きすぎると自分自身を焦がす。
憧れだったカミナは見れば見るほど眩しく、しばし目を逸らさずにはいられなかった。
何だか持て余すこの気持ちを落ちつかせようと賑やかな宴からそっと離れ、森に入るとすぐに開けた場所になった。
目の前に広がっていた広い大地を月明かりの下、眺めて私は大きく息を吐く。
「…なに溜息ついてんだ?」
「わっ…?」
知った声に振り向くと、おひさまが居た。カミナだ。
頭を掻きながらのしのしと私に近付いて来る。
「いや、あの…別に」
「何か面白いモンでも見えるか? 」
「…っ」
カミナと話すのはこれで二度目。しかし既に呼び慣れたかの様に自分の名を呼ばれ戸惑った。
「あァ?」
そんな私の動揺を知らず、カミナが隣に立ち私の顔を覗き込む。
慌てて目線を逸らし、目の前の暗く広がる大地を見据えた。
「お…面白いよ、全部。初めて見るものばかりだし。私の知らない世界が見れるのは、嬉しい」
自然に口から出たその言葉は本当だ。
隣のカミナがその外の世界を知る切っ掛けをくれた。
「っ、ごめんなさい! こんな話つまらないよね」
静かになってしまったカミナに気付き慌てて謝るが、カミナはきょとんとした後、にかっと笑った。
「いーや。、お前の言ってる事もお前の気持ちも分かるぜ」
「え…?」
思わず聞き返す私にまた笑いかけ、カミナは眼下に目を向けた。
「俺も同じだよ。地上に出てから全部が面白ェ。嫌なモンや見たくねェモンも見ちまったりしたけどよ、やっぱり俺は地上が面白ェ」
眼下から続く坂を見ながらカミナが言った。
「、お前も同じなんだな」
そう言って、カミナは私の頭をぽんと撫でる。
「明日は楽しみにしてろ。あのデカブツをいただいたら、俺がお前を世界のどこまでも連れてってやらァ!」
「…!!」
その言葉通り、どこまでも続いて行きそうな笑顔でカミナが笑う。
笑って手を振り去って行くカミナを見送りながら、私は今まで無い程に胸が熱くなるのを感じた。
…そうか。私が間違っていた。
憧れていた彼は、太陽、だけじゃない。
暗い夜道を照らす月と星。それらを全部包み込む、この大きな空だ。
「…カミナ」
そう呟き、胸が熱くなるこの気持ちをはっきりと自覚した。
その翌日。
カミナの死によって、私の世界は崩壊したのだった。