第1章 1部
「ねえねえ」
「あァ?」
「幽霊ってご飯食べるの? 寝るの?」
一頻りの馬鹿騒ぎの後、私は浮かんだ疑問を聞いてみた。
「あー…飯は考えた事無かったな。でも寝るぜ一応」
「へえ、寝るんだ」
「飯は食いたいって思わなかったなあ」
「じゃあ食べてみよっか」
「おう」
よいせと立ち上がり、キッチンに向かう。その後ろを興味深そうにカミナが付いて来た。
「何を食べてみたい?」
「肉と酒」
「肉食男子…」
「漢が肉食じゃなくてどうするってんだよ」
わははと豪快に笑うカミナに苦笑いを返して、貯蔵庫から肉を取り出す。薄く削いで鉄板で焼いてみる。良い匂いがキッチンに広がった。
「美味そうな匂いだな」
「匂いは分かるんだ」
「そうみてェだな。…なんだそれ」
「コンロ? リーロンの発明品。これでいちいち火を起こさなくても食事が用意出来るんだよ」
「へえ。ロンの奴すげェな」
そう、凄いのだ。リーロンに限らず皆が凄い。
王都テッペリンと云う下地があるとはいえ、一年で町をこんなに便利にしてみせた。それはどれほど凄い事なのだろうか。
「どうぞ」
フォークを添えてカミナの前に出してみる。
「おう」
短く答えてカミナがフォークを取った。すかさず肉に刺しそのまま口に運ぶ。
「旨ェ!」
「良かった。ありがと」
フォークなど道具は使えるのだなあ、と感心してカミナの前の皿を見る。
「…あれ」
肉が残っていた。
「カミナ食べたよね」
「おう、食ったぜ」
「貸して」
カミナからフォークを借り、焼いた肉を口に運ぶ。
美味しい。無くなったのでもう一切れ。
「俺にも食わせろ」
「はい」
カミナに向けて、肉を刺したフォークを差し出すが受け取らずそのまま齧りついた。
「やっぱ旨ェな」
「…やっぱりある」
私のの手の中にあるフォークと、刺したままの肉。
「美味しい…んだよね」
「おう、旨ェぞ」
どうやら幽霊は食べる事は出来ないが、食べるという同等の行為とその味を知る事だけ出来るらしいのか。
がつがつと肉を頬張るカミナを見るが、口に入った筈の肉は皿の上に置かれたままだ。
(お供えってそういう意味もあるのかな…)
何だか賢くなった気がする、と独りごちて頬を膨らませたカミナを見る。