第1章 1部
「そうそう、私の話。まだ内緒にしておいてくれる?」
「先生になること?」
カップを洗いながらヨーコが肩を竦めた。
「うん。まだなんか恥ずかしくてにしか言ってないんだ。には落ち着いたらちゃんと連絡するから」
「…うん、分かった」
手の水を払ったヨーコが私を見た。
「そのうち教えてね」
「…何を?」
ヨーコがその意志の強い目を眩しそうに細め、微笑む。
「の、明るくなった理由」
「…!」
「…あいつは先生になんのか」
ヨーコを見送り、ずっと黙ったままのカミナがぽつりと声を漏らし、私の頭に手を置いた。
「うん、そうみたい。すごいね」
「ああ」
ヨーコがしていた『カミナの話』をカミナ自身はどう思ったのだろうか。
そうしてカミナはヨーコをどう思ったのだろうか。応援はしたが、居なくなるヨーコを思い身震いする。同時に居なくなるヨーコに安心してしまう自分がいた。
(ヨーコがカミナから離れる)
カミナからヨーコは見えるから。諦めた筈の恋に嫉妬が混ざる。
小さく震えた私に気付いたのか、カミナが私の顔を覗き込んだ。
「どうした」
「何でも無い」
「何でも無い訳ねェだろーが」
カミナが笑って私の頭を掻き混ぜた。
「寂しいのか?」
「…どうなんだろ」
「お前には俺が居るから良いだろ」
思いもよらない言葉に思わずカミナを見上げると、カミナは変わらず笑顔で私を見下ろし、わしわしと頭を撫でる。
「ヨーコはヨーコにしか出来ねェ事をやりに行った。そう思えば寂しくなんざねェだろ?」
そう言って撫でる手を止め、私の肩に手を回した。
「そんでは、お前にしか出来ねェ事をやればいいさ」
「…うん」
ヨーコが羨ましかった私は、とてもヨーコが好きだった。出て行くヨーコに寂しいと思うし、同時に誇らしかった。ヨーコは私にとっても向日葵だった。
「ヨーコももお天道様見て笑ってりゃ、俺ァ嬉しいんだからよ」
そう言ってカミナは屈託なく破顔した。
(…分かった)
カミナはおひさま。ヨーコは向日葵。
私のちっぽけな嫉妬心なんて溶けて無くなってしまう程度の、強く暖かい二人。
ヨーコとカミナの言葉は私に種を撒いた。私も出来れば小さいながら花を咲かせたい。
そうして戦友は旅立って行った。見送る私は、次に会う時は自分の花を咲かそうと心に決めたのだ。