第1章 1部
「ヨーコ、すごく勉強してたもんね」
「ありがと。碌に字も読めなかったし大変だったよー」
「そうなんだ…」
冷め切ったお茶を取り替えようと立ち上がる私に「手伝うよ」と言ってくれたヨーコと共にキッチンで一緒にお茶を淹れ直す。
螺旋王と獣人の支配が終わり、カミナシティ以外の土地でも徐々に地上に町が出来始めたそうだ。しかし聞くところによると各々の町には子供の数に対して学校は勿論教師が少ない。
「カミナシティはこれから大きくなるでしょ。私はもっと小さな町で先生をしたいなって思って」
まだまだ治安の面で不安な町も多い。ヨーコが行くならその面でも心配が無さそうだ。
そう言うとヨーコは「任せといて!」と握り拳を作って笑って見せた。
「…頑張れよ」
柔らかな声に私が振り返る。
私達の話を黙って聞いていたカミナが、にっと口角を上げヨーコに向かって微笑んでいた。
それが嬉しくて思わず瞼が熱くなったので、私もカミナに向かってにっこりと笑いかけた。
「…、明るくなったね」
それを見ていたのか、ヨーコがお茶に口を近付けながら上目遣いで私を見上げた。
「そ、そう?」
慌てて誤魔化すように首を傾げてみせるが「ほらそういう所」とヨーコに言われ苦笑いになる
それは先程から何人にも言われた事だ。自分でも自覚があるのだから他人から見たら相当変わったように見えたのであろう。
「あいつの…カミナのお墓に行ってからだよね」
湯気の上がるカップの中身を眺めながらヨーコは呟いた。
「そう…かな」
歯切れ悪く返したが、ヨーコは不審に思っただろうか。
変わった。それは私からしたら当然だ。
大好きで憧れだった人が居なくなり、そして戻って来た。
しかもその人は私にしか見えないなんて。説明も出来ない歯痒さに奥歯を噛む。
「…が元気になったのなら良かった」
カップの中身を飲み干しヨーコが立ち上がる。
「御馳走様。そろそろ行くね」
「あっもうそんな時間?」
「うん、お昼休みもうすぐ終わるかな」
空のカップをシンクまで運びつつ、ヨーコが振り返った。