第1章 1部
思えばニアについてカミナと話したのはこれだけだった。カミナにも聞かれなかった。
(弟分取られちゃったとか思うのかな)
そっと隣のカミナの様子を伺うが、幸せそうな二人を目を細めて眺めている。
カミナにも分かるのだろう。
ニアが居たからこそ、シモンは大丈夫だったのだと。
花のようなニア。美しくて可憐で儚くて繊細で、だが実は大樹のようにとてもしっかりした彼女。
それが分かっただけで、カミナには充分だったのだ。
満足そうなカミナを連れ、大グレン団の皆を訪ねようかと提案した。
シモンはああして石像を掘り進めているが、実際はすごく忙しい。
カミナシティと名付けられたこの町は、今急速に『街』へと変わっている。
その先鋒がロシウだ。
「僕はシモンさんをフォローします」
と自ら補佐官を名乗り、シモンを既に上官扱いしている。
肝心のシモンは未だ煮え切らなかったが、今日私が伝えた『アニキの言葉』で漸く総司令と名乗るのかもしれない。
ダイグレン操縦時からその補佐として頭角を現していたキノンを連れ、ロシウは日々カミナシティの発展の為に尽くしていた。
そう伝えると「あのデコ助がねえ」と感心している。ほんの少し心配そうに見えるのは気のせいだろうか。
訪ね歩く事に賛成してくれたカミナを連れて、一先ずロシウを訪ねようかとカミナシティに聳え立つデカブツの跡地に向かう事にした。
「何だありゃァ。でっけェな」
遠目にも巨大なデカブツを前にカミナが感嘆した。
「あれはロージェノムが城として使ってた場所だよ。今あそこに新政府が作られてるの」
新政府? なんじゃそら? とカミナが疑問に口を開きかけたその時。
「こんな往来でなに独り言を言ってんの? ってば」
朱く陽に透ける髪、過度とも言える位の露出は日に焼けた身体を健康的に魅せてくれている。
例えばニアが可憐なかすみ草なら、彼女は大輪の向日葵。
「昨日からあんたちょっと変よ?」
向日葵が笑いながら話しかけてきた。
「ヨーコ! もう失礼ね、何でも無いよ」
それは戦友であり親友であり私の憧れであり、なにより。
「…ヨーコ」
隣で彼女を凝視しているカミナの気配を感じる。
(…私は知ってる)
戦友がカミナに想いを寄せていた事。そして彼も向日葵に惹かれていたという事を。