第1章 1部
「何とかなったのはニアのお陰」
「ニア?」
「螺旋王ロージェノムの娘。いらなくなった、ってロージェノムに捨てられてた」
そしてまたニアの顛末を伝える。
「ラガンが動かなくなっちゃって、ダイグレン…元のダイガンザンね。それももう一回獣人に奪われちゃって、絶体絶命だった」
そこに現れたのは誰も崩せなかった壁を崩して、ニアを迎えに行ったシモンだった。
「…シモンの声が聞こえた時、私も胸が高鳴ったよ。」
高鳴った理由は、ラガンから聞こえて来たシモンの言葉が、彼のアニキそっくりだったから…とはカミナには言えず、それからシモンは立ち直ったと締めた。
「……」
カミナは無言だった。宙の一点を睨み付けるように見据えている。
私も無言だった。押し黙るカミナの気持ちが分かってしまうし、その時の自分の絶望と希望も否応なしに思い出す。
カミナが死んでしまってまだ一年なのだ。自分の目の前に本人が居るとはいえ、あの悲しみは辛かった、と一言で言うには余りにもしんどい。
「…俺は死んだ事は後悔してねェよ」
「…えっ」
沈黙の後にカミナから発せられた言葉は、予想外過ぎて聞き間違いかと思った。
目を剥いて自分を見る私に、片眉を上げてカミナが続ける。
「後悔なんざ生まれてこの方した事ねェよ。まあ悔しいけどな。生きてりゃまだまだ面白ェ事が一杯あったみてェだしよ」
そう言って肩を竦め、賑やかにざわめくカミナシティを見回す。
「あの時俺は死んじまった、それはもう変えられねェ。じゃあどうする? 俺は何でかこうしてここに居る。だったらこの新しい人生を楽しむだけってんだ」
お前も居るしな、と私の頭をわしわしと掻き回した。
(…カミナはそれでいいの?)
その質問は何だか聞いてはいけない事のような気がして、黙って頭を撫で回されるがままにする。
ふと気付くとカミナが私を見下ろしていた。
「…お前が気にすることじゃねェ。一旦終わっちまった人生から這い上がって来た俺様を信じろ」
見透かされたと頬が赤くなる。やはりカミナには敵わない。
「さて。次はどこに案内してくれんだ?」
「痛っ」
頭をぽんと叩かれ、それが痛いとむくれてみる。それを見てカミナが笑いながら髪の毛を風に揺らした。
カミナが死んだ時、神は居ないと嘆いた。
でも今は祈る。居るか居ないか分からない神様。
どうかお願いします、カミナをもう連れて行かないで。