第1章 1部
「…俺は穴掘りシモンだから。休むとか休まないじゃなくて、ここだと思う所まで進みたいんだ」
「自分の思う所まで?」
「そう。ジーハ村でも外の世界に出てもそう。俺が掘ってアニキが進む。ずっとそうして来たから…本当は今さら先頭に立って進むのはやっぱり気が進まない」
「……」
黙って聞く。隣のカミナも黙って腕組みをしていた。
「でも今に言われてちょっと思ったんだ。総司令っていう仕事も、ひょっとしたらやり方が違うだけで穴を掘る作業と同じなんじゃないかって。俺が掘って皆が進む…アニキみたいに」
「…シモン」
カミナが呟く。
「分かってるよ、アニキは…死んだ。もう俺の掘った穴を進んではくれない。だから余計に思ったんだ。アニキの代わりに…俺がアニキの代わりって意味じゃなくて。どこまでも進んで行ったアニキの代わりにもっと沢山の人を連れて行こうって」
だから、休むよりも早く先に行きたいんだ。とシモンが鼻を擦った。
黒くなった指先が、珍しく饒舌なシモンの鼻の下に一本線をつける。その姿が様になっていて、一年前のシモンとは明らかに違うのが分かった。
「…そっか。シモンなら皆が付いて行くよきっと」
「俺なんてまだまだだけどさ、そうでもしないとアニキに恥ずかしいし」
「恥ずかしいなんて言うなシモン」
照れて笑うシモンにカミナが笑いかける。
私はそれを横目で見て、また悲しくなって嬉しくなった。
「…シモンは、カミナから見てどうだった?」
また作業に戻るシモンに手を振りその場を離れる。シモンが作業を再開するのを見上げてから隣のカミナに尋ねた。
「ああ…、でっかくなりやがったなあ」
日差しを手で遮りながらカミナがシモンを見上げる。幽霊も太陽が眩しいのだろうか。
「…カミナが死んじゃったとき、一番大変だったのはシモンだよ」
ダイガンザン奪取からのその後の顛末をカミナに話す。途中何回か声が詰まったのは、自分もまた当時はカミナの死に打ちのめされていたからだ。