第1章 1部
「それ仕舞うのか?」
「うん、もう終わったし」
「俺にもやらせろよ」
「えっ」
「いいから」
仕舞ったドライヤーを奪い取るように取り出し、カミナが私に向き直った。
「いっ、いいよ! 私はもう乾かしたし!」
「この線を繋げるんだな? ほれこっち来やがれ」
「きゃー!」
先程までカミナが座っていた場所に無理矢理座らせられ、頭を押さえつけられた。
「…こうか?」
「ちょっと熱い! カミナってばそれ熱いよ!?」
熱風が勢い良く噴出される。
「ん? じゃあこうか?」
頭上でかちかちとスイッチを弄る音がする。その度に音が小さくなったり大きくなったり。
「ほら、頭こっちに寄越せ」
「…う」
何とか逃げようともがくが、押さえつけられた頭は逃げられない。
「…や、優しくしてね」
「…馬鹿野郎。変な言い方すんじゃねェ」
恥ずかしさに思わずおどけてしまったが、予想外に若干慌てた声が降りてくる。
暖かい熱風と、乱暴に掻き回される髪の毛。
明らかに自分とは違うサイズの指の感触に体温が上がってしまう。
「…気持ち良い」
「だから変な言い方すんじゃねェ」
「でもカミナも言ったよ」
「…そうだっけか?」
「人に髪乾かして貰うって気持ち良いね」
「…そうだな」
うっとりと目を瞑ると、カミナの感触が更に感じられた。
「またやってやるよ」
「うん。私も」
幸せな約束は、私の胸をはっきりと暖かくしていった。