第1章 1部
「…なんだそりゃ」
風呂から上がりドライヤーで髪を乾かす私に、カミナが声を掛けてきた。
「ドライヤー。ここから出る暖かい風で髪の毛を乾かすの」
「それもロンの発明か?」
「正解」
ふうん、と不思議そうにしながらカミナがドライヤーを眺めている。
「…やってあげようか?」
「いいのか?」
カミナがぱっと目線を上げた。その仕草が可愛くて自分の耳が赤くなるのが分かる。
「いっ、いいよ! そこ座って」
「おう」
いそいそと床に座り込むカミナの後ろに回り、まだ濡れたままのカミナの毛束を手に取るとスイッチを入れた。
「へえ、あったけェな」
呑気な声でドライヤーの熱を堪能するカミナ。
(…あ、どきどきする)
カミナの髪の毛に触れるのは初めてだった。短いけどさらりとした短髪にロイヤルブルーの毛色が眩しい。
いつもつんつんと上を向いている毛先は水滴のせいで垂れていた。
弱風設定にしてゆっくりと乾かす。手櫛で梳きながら毛の流れを整える。
カミナの短い髪はすぐに乾かし終えてしまった。
(もう終わっちゃった)
あっという間に終わってしまったブローに物足りなさを感じ、ドライヤーのスイッチを切る。
「あ? もう終わりか?」
騒々しい音が止められると、カミナが私を見上げた。
「うん。カミナは髪短いしね。終わったから立って良いよ」
「おう、ありがとな」
立ち上がってふるふると頭を振っている。真新しい事に興味が有るのかまだ暖かい毛先に触れてみて「おおっ」と小さく歓声を上げたりしている。
「乾かしておくと風邪引かなくて良いよ」
「俺は風邪なんざ引いた事が無ェ」
「…だろうねえ…」
苦笑いでドライヤーを仕舞う。カミナが風邪を引いた所は思い浮かばないし、ましてや今は風邪なんて引く事も無いであろう。たぶん。
「気持ち良いなこれ」
「…!」
考え事をしていてぼうっとしていた頭に、捉えようによっては意味深とも取れる言葉が飛び込み思わず頬が赤くなる。
「またやってくれよ」
「…うん」
小さく返事をしてカミナに背を向けた。
(…またカミナの髪に触れられる)
願っても届かなかったあの空色の髪に。
それがどうしようもなく嬉しくて、切なくて、カミナの顔を見れなかった。