第1章 1部
「何よその目…」
「…何でだよ」
恨みがましそうに呟くカミナ。口がへの字だ。
「何が?」
「おい、お前はなんで服着てんだよ!!」
「はああ!?」
突拍子も無かった。カミナが続ける。
「風呂と言ったら裸! 裸は漢のロマンだろ!? なのに何だ! お前は風呂に居るのに服を着ている。それは風呂への冒涜だ! 良いから脱げ、脱いじまえ! それが風呂への礼儀ってモンだろうが! お前も入れ! 裸になっちまえ!!!」
「…誰が脱ぐかぁあああっ!!!」
持っていたタオルを投げつけ、バスルームの扉を乱暴に閉めた。
「一緒に入る訳無いでしょ!? ばかカミナ!!」
タオルが顔に当たってもがいているのか、中でくぐもった声がする。
(ほんとにデリカシーが無いんだから!!)
「次は私が入るけど覗かないでよ!?」
「…幽霊なのに壁とかすり抜けられねェのは不便だよなあ」
「何考えてるの」
「……」
横を向いてとぼけるカミナを睨みつけ、バスルームに向かう。
――鼻先まで湯船に浸かる。一人になり考え事をするこの時間が好きだ。
(…もうほんと…変わらないなあ、カミナ)
がさつで助平で、それで何でも大笑いで吹き飛ばしてしまうような大雑把な彼。
そういう所も含めて、全部まるごとカミナで。
(…ばか)
知らず笑みが浮かぶ。
バスルームでの涙は、もう出る事は無かった。