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黒猫の悪戯

第6章 ノブレス・オブリージュ


***
@救護室


「…という感じです。私はその時一緒にいなかったから周りから聞いた話なんですけど」

「なるほど。随分グロテスクなリアルハリネズミだったという訳ですね」


リアルハリネズミ、という単語を聞いてお香は少し頭を抱える。


「私が駆け付けたときは血まみれの印象のほうが強いですわ…あぁ、本当に無事でよかった。椿ちゃん、ごめんなさいね。私が一緒にいるべきだったわ」


むすっとした顔をした椿が少し表情を緩める。


「………お香さんのせいじゃないです。私が勝手に落ちたので」


そう言って椿はゆっくりとベットから上体を上げた。
腕から包帯、包帯からシーツへ赤が少しだけうつった。


「お仕事の邪魔して、申し訳ありませんでした」


下がった頭の位置はわずかだったが、おそらく今の精一杯だろうということはお香にも鬼灯にも分かった。


「…でも、私間違ってたとは思えません。助けてくれって言われて助けてあげない人が、誰かを裁けるなんて思えません」


キッと上げられた目線。
包帯で隠れていない左目だけだったが、眼光が十分だった。

その雰囲気に負けたお香が鬼灯に視線を投げる。


「…鬼灯様、どうしましょう…」

「…まぁ、安易に獄卒を勧めた私にも責任がありますしね。怪我が治った後は私が引き取りますよ。まずは教育からです」


鬼灯はまだ眼光を緩めない椿に向き直る。


「まずは身体を治して下さい。治ったら、私の仕事を手伝ってもらいます。いいですね?まぁ嫌だと言っても選択肢はありませんが」

「…」


ぼふんっと布団に隠れた椿を見た鬼灯はまたため息をついた。
幸せが逃げる。
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