第9章 三日月宗近
好意、その感情を伝える事が出来なかった。
何故なら、彼女と目を合わせた瞬間、三日月は息を飲んだからだ。
窓から差し込む月明かりを背に受けて優しく、しかし寂しげに微笑む彼女の姿が他の何よりも美しく、三日月の身体を震わせる程の不安を感じさせたからだ。
主「三日月、今まで本当に有り難う御座いました。願わくばまだお側に居たかった…」
三日月「な…にを……」
主「私、きっと世界一幸せな審神者です」
三日月「一体何を…まるで、今生の別れの様な…っ」
身体が震える、不安と怖さで。戦ですら感じた事の無い恐怖が、三日月を襲う。
すると、彼女は布団の上で正座をし、手を床について深々と頭を下げた。
主「お世話に、なりました……」
三日月「………」
三日月は何も言う事が出来なかった。
彼女の覚悟を感じ取ったから。この若さで、こんな華奢な身で、こんな覚悟をする事は其処に優しさと辛さを秘めているから。
三日月は暫くの沈黙の後、部屋に戻った。
彼女は次の日も、その次の日も生きた。
しかし、三日目の朝。
三日月「主、起きているか?」
いつもの様に、三日月は審神者部屋を訪れる。
しかし、彼女が返事をする事は無かった。
三日月「……!?」
三日月は大きく目を見開き、審神者の元へ歩み寄る。
力なく、だらりと床に投げ出された手を両手で包むと、其処に彼女の温かさは無かった。
三日月「……っ」
彼女の手に自らの額をつけ、三日月は初めて涙を流した。
みっともなくとも、それが自分の弱さであろうと構わなかった。
ただ、彼女という存在が失われた事への哀しみが募る。
三日月「主、俺を……置いて逝かないでくれ……っ」
返事は無い。
三日月「今ならば…聞いてくれるか?」
三日月は審神者の頬を撫で彼女の額に口付けた後、彼女を見詰め、小さく呟く様に告げた。
三日月「叶うならば、二世の契りを……」
そう言って、固く閉じられた彼女の唇に自らの唇を重ねた…。