第9章 三日月宗近
素人が爪弾く辿々しい琴音の様に、時折響く審神者の咳。
口元に添えられた手は鮮血で真っ赤に染まり、細い指の隙間から血が垂れて白い布団に溢れ落ちる。
三日月宗近は彼女の近侍、四年程前から彼女の闘病の支えとなっていた。
けれど彼は何かをする訳では無く、ただいつもの通りに穏やかに笑って本丸の日常やらを話すだけだった。
三日月「主、起きているか?」
この日も彼は審神者部屋を訪れていた。
障子からひょっこりと顔を覗かせる仕草は、まるで孫を訪ねてきた祖父の様。そう、以前に彼女が話した時、三日月は笑っていた。
主「起きて…ますよ」
咳をした後で呼吸さえも苦しい中、審神者は言葉を途切れさせながら返事をする。
三日月はその返事を聞くと、部屋に入り、横になっている審神者の隣に腰掛けた。
三日月「今日は平成、2010年の東京という所に行ってきた」
主「2010年です…か、江戸は、貴方達がよく知る物からは…かけ離れていたでしょう?」
ゆっくりとだが、言葉を紡ぎ、小さく笑う。
彼女は身体が弱い。審神者になり、神力を使う様になって更に弱っていった。
けれど、決して弱音を吐く事は無かった。苦しい、辛い、という言葉も使った事は一度も無かった。