第6章 小夜左文字
小夜はぴくりと肩を跳ねさせ、目を見開いた。
聞きたくて仕方無かった声が、弱々しいながらも耳に届く。
うっすらと覗く彼女の瞳が己を映し、彼女の口元が優しく弧を描いた。
小夜「あ…るじ…?」
主「小夜ちゃ…ん…だいじょ…ぶ……だよ」
嘘だと分かっていた。
でもその嘘は、苦しくて仕方無い筈の彼女が吐いた優しい嘘だという事も…小夜は気付いていた。
だから、小夜は小さな手で彼女の頭を撫でる。
小夜「もう…苦しまなくても良いんだ。主を苦しめるものは、僕が全部斬ってあげるから…」
主「……ふ…ふふっ……百人力…だね」
もう大人な筈なのに、まるで子供の様に屈託の無い笑みを浮かべて見せる彼女。
でもその笑顔は儚い位に力が無くて…。
小夜「だか…だから……元気になって…っ」
ついには泣き出してしまった小夜を、力を振り絞って胸に抱き寄せる。
確かな温かさと弱々しいが優しい鼓動…小夜はその温もりに抱かれ、瞼を閉じた。
まだ大丈夫、まだ鼓動は消えない。
その温もりが心地よくて…小夜は眠ってしまった。