第1章 次郎太刀
次郎「ほらアンタも飲みなよ」
次郎達が盃に酒を注ぎ、静かに彼女の前へ差し出す。
反応は、今日も無い。
ただ静かに、微かな呼吸をしているだけ。
次郎「なあアンタ覚えてるかい?アタシがこの本丸に顕現された時の事」
注いだ盃を一気に煽る。
一息吐いて口を開けば甦る思い出話を呟く様に、彼女へと語り掛ける。
次郎「酒好きなのは良いけど、飲み過ぎはいけないんだろ?ちゃんと言ってくれなきゃ…アタシは飲み過ぎちまうよ?」
何を言った所で、彼女が反応する事は無かった。
けれどただ一つ、次郎太刀が手を握った時は微かに握り返して来る。
その僅かな触れ合いに次郎太刀は安心し、またそれが何よりも嬉しかった。
次郎太刀「静かだねぇ…あんなにお喋りだったアンタが黙り決め込んでる所為だよ?ほら、何か喋っておくれよ…」
湿っぽくなる自分の口調に、鼻がツンと痛む。
彼女の姿を見下ろしているだけで、次郎太刀は胸が張り裂けそうな程…辛かったのだ。