第1章 存在
「本当にごめんなさい」
彼女はずっと謝っていた。
太輔「もう気にしなくていいですよ。」
「でも……せめてお詫びしたくて………」
太輔「じゃあ、ひとついいですか?あっ、まだ名前言ってなかったですね。俺は藤ヶ谷太輔っていいます」
「あっ、私はです」
太輔「さんって言うんですね。あの、ちゃんって呼んでもいいですか?俺の事は太輔でもガヤでも好きに呼んでください」
「はい。じゃあ太輔くんって呼びますね」
太輔「それでちゃん、改めて俺と友達になってくれませんか?それがお詫びってことで……」
「わかりました」
太輔「ちゃん、よろしく」
「こちらこそ」
俺達は笑顔で握手を交わした。
太輔「また危ない目に会うかもしれないから家まで送ってあげたいんだけど、俺これから仕事なんだ。ごめんね」
「あっ、私なら大丈夫です。それより太輔くん、こんなに怪我してるのに仕事大丈夫ですか?」
彼女………ちゃんは、本当に申し訳なさそうにしていた。
小さい体を更に小さくして、俺の心配をしてくれた。
太輔「大丈夫だよ。こんな怪我、大した事ないから」
ニコッと笑いかけると、ちゃんは少しホッとした顔をした。
怪我なんて大したことなかった。
俺は人間じゃないから、怪我は直ぐに治る。
現にもう傷が消えてきている。
このまま彼女の前にいると、正体がバレそうだった。
俺達は連絡先を交換すると、ちゃんの前から急いで駆け出した。
太輔「このハンカチ、洗って返すから………」
そう叫ぶと、彼女はコクンと頷ずいた。
太輔「やばいなぁ………」
ただ見ているだけで良かったのに………
それ以上を望んではいけないのに………
彼女の優しさに触れ、笑顔に魅せられ、俺はどんどん彼女を好きになっていった。
彼女の香りが残るハンカチに触れ、自分の気持ちが抑えられない所まできている事に気づいた。