第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
「?これ、もしかして…」
「……」
私の胸元に触れたサボが、疑問の声を上げる。
薄暗くて手元が見えなくても、その原因が何か、私にはすぐにわかった。
「…防弾衣、プレート入りのね」
「!そんな!」
狙撃手は皆、銃弾から身を守るために、防弾衣を装着している。
防弾衣の上から胸を触ったとしても、ただフラットな板があるだけで、起伏を感じることはまずないだろう。
女性の場合も、その例外でない。
「細身だとは思ってたけど、上に乗られてるのに道理で何も感じないわけだ…」
「…残念だったわね」
水を差されたサボは、防弾衣のプレートをコツコツと叩いて落ち込んでいる。
装備に救われほっとしたにも関わらず、それを少し残念に思ってしまっている自分もいることに、私は頭を抱えた。
「まぁ、でもこれくらいで萎える俺じゃ」
「…お願いだから萎えて?」
この状況で続行されても、戸惑うばかりだ。
勘弁してほしいと思う私を他所に、俺は諦めねェとサボが言いかけたその時、地面が粘土のように柔らかくうごめいた。
次いで、狭い空間が広がり、粘土の奥からは巨体が現れる。
「xxxx、サボ、大丈夫ー?」
この能力は、紛れもなく西軍隊長モーリーのもの。
その便利な能力で、救援に来てくれたのだ。
モーリーは、絶妙なタイミングの、抱き合った状態の私たちを見て言った。
「…もしかして、お邪魔だった?」
*
戦線は、合流した西軍の活躍もあって安定したらしく、後始末が済んだら総本部へと帰還する手筈となった。
私たちは、救援信号を発見した部下のおかげで、見つけることができたそうだ。
どんな状況でいたかは、モーリーの計らいで伏せてもらえたので、誰にも知られることはなかった。
兵士たちが帰還準備をする間、狙撃銃を整備しようと、私は建物の隅へ腰かけた。
部下たちが働く様を眺めて銃を弄っていると、頭と身体が、日常を取り戻していくのを実感する。
街が灼ける匂いと戦後の生暖かい風を感じながら、先の出来事に耽った。
今日のことは、どうか一時の気の迷いであってほしい。
密室効果、というやつのせいではないだろうか。
地味な狙撃手として、また明日から軍のために生きていこう。
そうやって、私はまた自分に言い聞かせるのだった。