第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
ここ革命軍の中で、サボは一際人気が高い。
私よりいくつか若い組織のナンバーツーは、強いだけでなく、明るく前向きで誰にでも優しい。
それでいて甘いマスクの男は、モテるのが世の常だ。
例えば、普段の食事のときはいつも女性陣がサボを囲んでいるし、本拠地近くの街に立ち寄ればファンによる人だかりができてしまう。
ちょっとしたアイドルのようである。
さて、なぜこんな話をするのかというと、そのサボが、ある日を境に私へ絡んでくるようになって、困っているからだ。
頻繁に他愛もない話をしてきたり、食事に誘われたりされ、毎回やんわりと断ってはいるが、その度に取り巻きの女性陣の視線が痛かった。
「あの地味で野蛮な女のどこがいいのかしら」と給仕たちの噂話が聞こえてきたときは、私もそうとしか思えず苦笑した。
私という女の印象は、客観的に見ても地味でいて野蛮だ。
外にいるときはいつ仕事になってもおかしくないようにと、アースカラーで動きやすい地味な服装をしているし、スナイパーにとって命の目を護るため、色付きのサングラスが手放せない。
自主的に取り組んでいることとはいえ、いかなる時も敵に気付かれにくく且つ動きやすくするためには、狙撃手は一般的な戦闘員と比べて身につけるものの自由度は少ないだろう。
身の丈以上のライフルを背負い、表情を読み取れない地味な女など、威圧的で近寄り難いにも程がある。
おしゃれで煌びやかな装いや、花や香水といった匂いのする彼女らに対し、私は血や泥の付いた戦闘服を纏い、それに染みついた硝煙の匂いしかしないのだ。
それに不満があるのかというとそうではなく、今挙げたどれもが幹部の護衛狙撃手である以上は必要なことであり、私はただ役割を素直に受け入れていた。
(護衛チームの中には不満を漏らすメンバもいないことはないが)
それよりも、近付き難い外見のおかげで、無暗に男が絡んでこないことがありがたかった。
結果としてなってしまった威圧的な出で立ちも、マフィアのボスの右腕みたいでかっこいいです!と部下に言って貰えているし、これはこれで割と気に入っている。
それ故、サボのような人気者が、私に近付くこと自体が不可解でならない。
意外と変わり者で、こんな女がタイプなのだろうか。
とにかく、居心地が悪いのは事実で、かといって如何ともし難いことに、私は日々頭を抱えているのだ。