第4章 気づかないままで
息を切らしていると、自分の吐息に別の音が混ざった気がした。一瞬気のせいかと思えたがすぐ後ろに何かが来た気がして振り向くと、一瞬で見慣れた青色のジャージが脇を通り過ぎていった。
後ろ姿からして東堂で間違いない。
『眠れる森の美男子だからな!』
と言っていたのが脳裏を過る。
(嘘じゃなかった・・・)
あんなに静かにこの坂を登り、
(あんなに速く走れるの?)
普段の女子好きで調子が良い姿とは違っていても、輝きを放つところは
(登っていても変わらないのね)
としみじみ思う。
過ぎ去る一瞬、笑みを浮かべていた気がする。
今まで部活に来いと五月蝿かったのに。
(最近は全くなくて)
距離感が近くてこちらの方が戸惑っていたのに途端に離れて
(なのに今日は)
あんなに至近距離で部活に誘ってきて
(こんな坂を登らさられて)
振り回されている気がする。
(なのに)
なのに
(あんな姿見せられたら)
登る姿があんなにも格好良いなんて、良い意味で裏切られた気分になる。
すると後から他の選手達も名を抜いていき、その姿を見ながら、ロードバイクがレースが好きだと訴えてくる姿を人に見せられるのは羨ましく思った。
(だからオーラがあるのかな)
努力が自信に繋がると言うのはきっとあぁ言う事なんだろう。
東堂にも選手達にも抜かされたその先を見ると1つの人影が頂上からこちらを見ている。その影が誰のものかなんて、なんとなく察しがついた。
全く、人を呼んでおいて高見の見物ですか?
てかてっぺん取るとこ見られなかったし
そもそも先に言ってくれれば
っていうか私なんで
なんで東堂君のために来ちゃったんだろう。
「はぁ」
と息切れと共に頂上に着くと
「よく来たな!!!」
と東堂が大歓迎のなか、名はよくもそんな事が!と返そうにも
「さすがは名だ!!」
と満面の笑みに全てが帳消しされてしまう。
「よく来てくれた!」
そう言ってくる東堂の嬉しそうな反応を愛しく思いつつ
「坂なんて登るもんじゃないっ」
と悪態づいても東堂は始終ニコニコ顔だった。
部活に来いと言っただけで、どうしてここまで来たのか。
頂上にとは言ってないのにどうして分かってくれるのか。
「本当に興味が湧く奴だな」
と東堂は名の頬を撫でそうになり、その手をひっこめる。