第14章 潜入、白鳥沢学園2日目〜記憶の『 』〜
「いやだ!俺、こいつと別れたくない!」
工は泣きながらそう言って、ギュッと私を抱きしめる。その力が強すぎて苦しかったけど、それ以上に胸が苦しくて痛かった。
「こら工、我儘言わないの!家にいるのは怪我が治るまでだったでしょう?」
「そうだけど、そうだけど……!」
「工は約束が守れない、悪い子だったけ?」
「うぅ〜……!」
お母さんのその言葉に工は顔を俯かせて、しばらくしたら私を抱きしめていた腕をそっと解いた。諦めたのかと思ったけど、そうではなかった。
工は顔を上げて、真っ直ぐ私の目を見つめてきた。その瞳はまだ涙で濡れていて、またズキリと胸が痛んだ。
「お前も…、お前も俺と別れたくないだろ……?」
「…………」
「工、何を言ってるの?この子が喋れるわけないでしょう?」
「うるさい!俺はこいつに聞いてるんだ!お母さんじゃない!」
「まあっ!?工!お母さんに向かってその口の利き方はどうなの!」
工はお母さんの怒りを無視して、じっと私を見続ける。「別れたくないよな?」と、そう目が語っていた。
(……私も、別れたくないです)
心の中で本音を呟き、でもその本音を口に出す事は出来ない。仮にここに残ったとしても、それは工と私だけが嬉しい事で、他の家族の人達には迷惑になってしまう。ここの人達には大変お世話になったから、そうなってしまうのは本意じゃない。
……でも、工と別れたくない、悲しませたくないというのも本心で。
(こんな事になるなら、私達は出会わなければ……)
そこまで思って、心の中で慌てて首を横に振る。何を言っているんだ、工が見つけてくれなければ私は死んでいた。感謝こそすれど、それを恨みがましく思うなんて間違っている。
(工を悲しませず、かつここの人達に迷惑をかけないようにするには……)
自分の本音にはそっと蓋をして考える。……考えて考えて、やはり『これ』しかなかった。