第18章 幕間3
夜が深まり、人間も妖怪も寝入っている頃–––
白鳥沢学園の敷地内を歩く人影があった。その影は男で、人気のない場所に着くと、周りを見渡してから口を開いた。
「天孤」
「はい」
男の呼びかけに音もなく現れたのは、天狗の妖怪の天孤。顔には相変わらず天狗のお面がつけられている。
天孤は男の正面に立つと、膝を折り跪いた。
「どうだ?上手くいったか?」
「っ……」
いきなり切り出された質問に、天孤は言葉を詰まらせ黙り込む。それを怪訝に思った男が「どうした」と聞くと、天孤は気まずそうに顔を背け、言い辛そうに話し始めた。
「そ、その……牛島若利の、ある言葉を耳にした瞬間怒りで我を忘れ、思わず本気で…襲ってしまいました……」
「……あくまでフリだと、俺は言った筈だが」
「も、申し訳ありません……!」
男は、額が地面につきそうな程深く頭を下げる天孤を冷ややかに見つめため息を吐く。その反応に天孤はビクリと大きく肩を揺らし、今度こそ額を地面につけて深く頭を下げた。
「……牛島と五色に怪我を負わせたのか」
「い、いえ…。それは大丈夫です……」
「それ"は"?2人以外に怪我を負わせた奴がいるのか?」
「っ……し、白鷲さま…です……」
…………
天孤が言葉を詰まらせながらも正直に告白して暫く、沈黙が続いた。その間、もしかしたら1分も経っていなかったかもしれない。だが、天孤にとってその痛い程の沈黙は長く感じ、生きた心地がしなかった。
暫くして、不意に男が動いた。
地面に片膝をつき、天孤の肩をそっと掴む。その瞬間、今度は身体全体が大きく揺れた。いっそ可哀想な程に。
だが男はそれを無視して口を開いた。
「そうか、次は気を付けろ」
「…………え」
天孤は一瞬、自分の耳を疑った。でも、いつまで経っても非難の声は聞こえてこない。
なら、今のは自分の聞き間違えではなかったのだと天孤は確信した。
咎められるとばかり思っていたが、実際は注意されただけだった。しかも優しい口調で。
これはお咎めなしなのだろうか、とそんな淡い希望を抱きながら顔を上げた時だった。