第8章 月が綺麗ですね
ナルの腕に捕まって歩いていると心臓の鼓動がうるさかった。調子に乗って飲んだワインのせいだろうけど。
街灯で明るいとはいえ、夜に直近で見るナルの横顔は毒だ。
闇夜を照らす月でさえ美しさでは引けを取らない。そう思うのはたぶん酔っているから。
ドーンと大きな音がして花火が上がり始めた。
形も色もそれぞれな花火はイギリスではあまり見れないものでとても綺麗だった。
「花火、きれい…」
「うん」
ふと指にナルの指が当たって、自然と絡め合わせた。細くて長くて、それでいてやっぱり男の人の手。
ドクドクと、鼓動がさらに早く強くなる。
(…私、ナルのこと…)
気がついた感情に美しいと思った横顔を直視できなくなる。
心臓はますますうるさくなるばかり。
「清?」
うつむいた彼女を気にしたのか頭上から低くて、冷静なナルの声がした。
「何でもないよ…」
胸のざわつきは花火の大きな音の影に隠して、気づかないふりをした。
END