第8章 月が綺麗ですね
イギリスから帰国して早1ヶ月。
夏休みも終わり、皆それぞれの日常に戻っている。
日本支部の大きな変化はナルが8月終わりに日本に戻ってきたこと。理由を問うと、室長の許可が下りたからと彼は短く答えた。
そんなこんなで今日は土曜日。
学校が休みの麻衣達に加え、滝川や綾子達大人も集まってくる。昼前には渋谷サイキックリサーチは満員御礼となった。
ナルが戻ってきてからも大きな依頼はなく、所長室にこもったまま何かしている。
麻衣が「あたし、お茶出しOLだったっけ?」と考えながら毎日を過ごしている中で皆が集まる土日は結構楽しみだった。
ーーその日も話題は自然とイギリスでのことになる。
それは手厚い歓迎だった。交通費・滞在費はSPR持ちで十分に観光を楽しめた。
本家SPRにも訪問し実際の調査やその研究結果を聞くことができた。帰国の前日にはナルのパトロンの華やかなパーティにも参加して、彼は見事なマジックを披露していた(資金集めらしい)。
帰国からしばらくは滝川は浮ついてにやけていたし、安原は大学の仲間に自慢しまくったらしい。
綾子はクレジットカードの支払いに頭を悩ましており、節約するとか彼女らしくない発言が飛び出した。「自業自得ですわ」と皆を代表して真砂子が呟く。
時計の針が正午を過ぎた頃、ドアベルが鳴り話が中断する。
麻衣がドアの方に駆け寄ると馴染みの配達員が郵便物を差し出してきた。
お礼を言い、宛名をあらためる。ナル宛てのものと事務所宛てのものに振り分けるのは麻衣の仕事だ。
「……誰からだろう」と麻衣は呟いた。手には薄紫色の封筒。
エアメールだった。宛名はOliver Davisと書いてあるが、彼女が疑問視したのは差出人だった。
裏には日本語で、"日下部 清"と書かれてあった。