第7章 くろねこ再び
「ん〜、どれも美味しかったね」
酒が入った清は機嫌良くにこにこ笑う。
テーブルの上に置いてある、ゆらゆら揺れるキャンドルの火がお気に入りで何度も見つめていた。
コース料理も後はデザートを残すばかり。
ウェイトレスが小さなホールケーキを運んできた。添えられたチョコレートには"HappyBirthday Oliver"の文字。
「もうお母さんたら〜。写真撮って送ろう」
清はスマホで写真をパシャパシャ撮っている。
ケーキを食べる時になり、彼女はグラスが空になっていることに気が付いた。何か注文しようとメニュー表をパラパラめくる清に近づく影。
「サービスです」
「え、ありがとうございます」
背後からそっとやってきたウェイターは、ワイングラスに白ワインを注いだ。ボトルには"BLACK CAT"と書かれている。
何となく嫌な予感を感じているとウェイターの手元が狂い、ワインがナルのズボンに少し飛び散る。
「おっと…、すみません!」
「ああ、気にしないで」
ウェイターはぺこぺこしながらその場を立ち去るが、一度だけ振り返りナルの方を見て一瞬ニヤリと笑った。
「わわっ!これ見て、ナル!」
驚いたように清は声を上げた。促されてナルはケーキを見る。
ケーキの上のチョコレートのOliverの横にEugeneの文字。
「ジーンもお祝いされたかったのかな……」
(ちゃんとわかってるよ。誕生日おめでとう、ユージン……)
(だってナルだけお祝いされるなんて絶対不公平じゃん)
今日は二人の誕生日なのだから。