第1章 ヤドリギの下
15歳の春。
眉目秀麗な一卵性の双子。
それをどちらか見分けることは親をもってしても難しい。
たった一人を除いては。
清は一人、急ぎ足で教室に向かっていた。
担任にプリントを届けた後、雑談をしていたらもう次の授業の時間だ。
そのとき、前を歩く見慣れた姿を見つけた。
(ナルかな?)
さすがに後ろ姿でナルかジーンか、見分けるのは難しい。
だが、この方向に進んでいくということは同じクラスのナルのはずだ。
そっと前に回り込みながら、声を掛ける。
「ナル?どこか行ってたの?」
普段から彼の行動には無駄がない。
イギリス人らしからぬ、5分前行動は当たり前だ。
「…お前こそ遅れるぞ、清」
口調も顔つきもナルなのに、すごい違和感。
「…ジーン?また入れ替わってるの?」
彼が片眉を上げたのを清は見逃さなかった。
「またナルどっかに行っちゃったの?ダメだよ。ジーンのクラスは自習でもさぁ」
彼はため息をついた。
「何で、いつも清にはバレちゃうのかなぁ…」
いつもの温和な顔つきに戻ったジーンによると、ナルは大学の授業を聞きに行ったらしい。
9年生になった彼らはお互いの利益のために時々入れ替わっていた。
今まで誰にもバレたことはないのに、清だけにはすぐバレる。
彼女になぜか聞いても、なんとなくとしか答えない。
どうやら直感的なものらしい。
そのとき、チャイムの音が鳴り響いた。
二人は急いで教室に向かっていった。