第3章 ため息が一つ(空に溶けていく雲のように)【梵天丸】↑後
「あっ、あの…… ごめんなさい!かってにはいって…」
自分の小さな主の傍に座る少女の声で、はっと我に返る。
「あっ、いや…」
中に入って襖を閉め、ちらと梵天丸を見る。いつも下を向いてうずくまっているのに、顔を上げて、穏やかな顔で、少女を受け入れている。
小十郎は、この少女が誰なのかはわかっていた。2人に近づき、少女に視線を合わせる。
「高瀬真暁様のご息女、冴様とお見受けいたします。私は片倉小十郎景綱と申します。その、何故、こちらへ?」
梵天丸がむっとした顔で小十郎を睨む。こんなふうに不満を表に現わすことも珍しく、小十郎はたじろいだ。
「きのう、ひとりであそんでたらまいごになってしまって、ここにひとがいるってわかったから、なかに…」
「おれが、ゆるした」
実際には冴が勝手に入ったのだが、小十郎は知るよしもなく、またもや驚き目をみはった。
「…梵天丸様が宜しいのであれば、小十郎は何も言いませぬ」
言ってこぼれたのは、言葉とは反する溜息だった。
「…ふふくか?こじゅうろう」
「いえ、決してそのようなことは。しかし冴様は、真暁様からこちらには近づかぬようにと言われておられるはず。真暁様に知られたらと思うと、自然にため息が出てしまったようです」
「う…」
叱られる所を想像したのか、冴の眉がきゅっと下がった。
「こじゅうろう」
「しかしながら小十郎は、真暁様に告げるつもりはありませぬ」
冴といる事で、この小さな主の心が晴れるのならば。
「ほんと…?」
「もちろんですとも。小十郎に二言はございませぬ」
小十郎がはっきり言うと、冴は「よかったー」と笑った。それを見て、梵天丸の表情がほんの少し、和らぐ。小十郎は真暁に隠し事をすることに心を痛め、またため息をついたが、それはどこかに行ってしまうほど、小十郎の心もまた、和らいでいた。
しかし数日後、梵天丸のいとこである時宗丸にまで見つかり、小十郎はまたため息を落とすのだった。
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( )つき 001~050
お題配布元:はちみつトースト 様
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