第12章 傍から見れば、恋人同士【毛利元就】
穏やかな風が吹く中、一組の男女が縁側でくつろいでいた。ここ、高松城の城主である毛利元就と、幼馴染の高瀬冴だ。二人の間には茶と、ほどほどの量の茶うけが置いてある。しかし元就の茶うけはあまり減っていなかった。
「元就、もう食べないの?」
「…あぁ。食しても良いぞ」
言って元就は茶を口にする。冴は元就の器を手にしばしそれを見つめた後、何か思いついたように元就を見た。元就はよそを見ているため、気付いていない。
「元就」
「なん…?!」
冴は、自分の方に向いた元就の口に、饅頭を突っ込んだ。元就は不意を突かれてむせる。
「…ッ!な、んだ…!?」
「食べないなら食べさせてあげようかと」
「いらぬ世話だ!!」
元就が声を荒げるが、冴は悪びれた様子もなく、全く気にしていない様だ。しれっと庭を眺めながら茶をすすっている。
(まったく…人の気も知らんでのん気なものだ)
元就がため息をつくと、冴が顔を向けた。
「どうかした?」
「別に、何もない」
「そう?あ」
元就が顔をそむけたとき、冴が何かに気づいて元就に手を伸ばした。元就が、何事かと冴を見た時にはその手は彼の口元に触れており、離した時には饅頭の食べかすがついていた。
「……」
冴はそれをじっと見つめたかと思うと、
「なっ…!!」
躊躇なくそれを自らの口にした。
「っ…にをしている!!?」
「え、何って、ついてたから」
「そういう問だ…」
元就はそこで口をつぐみ、赤く染まってしまった顔を隠すように手で覆った。
(こいつにとってはそういう問題なのだろうな…)
元就は再びため息をついた。その頬はまだ少し熱を帯びている。ちらと冴を盗み見れば、彼女はまた庭を見ていた。元就も高まった鼓動を落ち着かせるために、庭の木々と、彼の崇拝する日輪を見つめた。