第1章 初めてのおともだち【松寿丸】
ふと先に我に返ったのは冴だった。未だぼーっとしている松寿丸をじっと見、ちょこちょこ近づく。松寿丸は気づいていない。
そんな松寿丸に、冴は背後から、抱きついた。
「ッ!!?」
松寿丸が驚いて勢いよく振り向く。すると。
ゴンッ
「~~~~~ッ!!」
「いったー―――!!」
鈍く盛大な音が部屋に響き、両者とも額をおさえてうめいた。
「う~~~~~」
「…ごめん。いたかった、よね」
こくん、と額をおさえたまま冴がうなづく。涙が流れるのを必死にこらえているらしく、目いっぱいに水がたまっている。
「…なかないんだな」
「…なくのは、うれしいときと、ほんとうにかなしいときだけだって、とうさまにいわれたから」
「…そう」
〝本当に悲しいとき〟
松寿丸の心に重くのしかかる。俯きがちになってしまったその頭に、ぽんと何かが乗せられた。小さな小さな手。
「しょーじゅのかあさま、いなくなっちゃったんでしょ?しょーじゅ、ないた?」
見透かされたような問い。そして松寿丸ははっと思い出した。そういえば。
「…ないてない」
「かあさまなのに?」
「なんでかは、わからない」
なんとなく、ただなんとなく、泣いてはいけない気がしたのだと思う。