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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第7章 サーカス






中也はもうずっと間諜を探し続けていた。どんなに他の仕事が山積みだろうが、どんなに疲れていようが、おかまいなしに。それはひとえに首領に認められるため。森に一人前の幹部だと言ってもらうため。



──わたしには、中也がどうしてそんなに森さんにこだわるのかがわからない。

──それでも、わたしは中也のために生きてる。

──だからわたしは、中也のためにできることをする。



中也がその身を削って炙り出した間諜と思われる構成員。その端末をクラックして、本当に間諜がその人物なのかを突き止める。是なら他に仲間がいないかを調べ、非ならそこから本物の間諜の手がかりを探す。

中也が怪しいと思ったからには確実に根拠があるはず。だから綴は間諜はほぼ間違いなくその人物だと思っていた。そしてもし違っていても、根拠になるだけのものを示しているのだから、何らかの手がかりが掴めるはずだと。

綴はブルーライトカットの眼鏡をかけて、その場に座り込んだ。持ち歩いているノートパソコンを開いて、尋常でない速さで文字列を打ち込んでいく。



「中也、わたしはきみの努力を無駄にはしないよ。……怖くないと言ったら嘘になる。ここに中也はいない。わたしひとりで間諜と対峙しなくてはいけない。怖いよ、ひとりでいるのは。けどやらなくちゃ。中也は今、組合との落とし前をつけるときなんだから。今度はわたしが頑張る番だから」



───さあ、これが祈りの底力だ。



綴の細い指が、力強くエンターキーを叩いた。



「わたしはやってみせる。中也のためなら何だって。これは誓い。はじめて出会ったあのときから、わたしが守り続けている約束。そのほんの一部にすぎない」



モニターを閉じて、綴は立ち上がった。記憶の中の中也を思い描きながら。

今度こそ、現実に寄り添って生きていける気がした。




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