第5章 秋日狂乱
武装探偵社のあるビルの前に綴は佇んでいた。いままさに黒蜥蜴が襲撃を開始している。銃声が聞こえた。綴は中に入る機会を窺っていた。
「これから、厄介なことになりそうだなぁ……」
例のライダースジャケットを、慈しみの目で見つめながら撫でる。ここぞというときに着るものだが、これからはそういう機会が増えそうだ。
「きみにも、頑張ってもらうことになりそうだよ──」
敦が慌てた様子でバタバタと走ってくるのが確認できた。やはり入電は罠などではなく、樋口の対応はまずかったことになる。
そのとき、ちょうど探偵社のある階の窓が開いた。
「おー、落ちていきます!」
聞き覚えのない少年の声とともに、黒スーツの男どもが落ちてくる。次いで立原、銀、広津の姿もある。
「あ……青空、幹部……」
「もう、だから言ったのに。さすがのわたしでも庇いきれなくなるよ?」
「す、すみません……」
「じゃあ、わたしも挨拶に行ってくるね」
「え?」
黒い集団の心の声が一致した。
──た、救けてくれないの……?
──
カツカツと小気味良い音を立ててビル内の階段を登る。材質のせいで音がよく響くが、そもそも壁が薄いのか、上階の声も筒抜けである。
いったいどれだけの人数で襲撃したのだろう。地面に落ちていただけで相当な人数だったのに、まだ悲鳴が聞こえる。
〝武装探偵社〟という安っぽいプレートを見てから金属の扉を開けた。
「こんにちはー」
「誰だ、こんなときに。悪いが出直してくれないか」
資料で見た眼鏡の男が言った。国木田独歩と名前まで角ばって見える。神経質というか、几帳面な一面を持っているらしい。武闘派で、たしか異能は──。
考えていると、ついこの間見た青ざめた顔と目が合う。
「あ、あなたは……」
「あぁ、もう治ったんだね。よかったね」
「あ、ハイ……」
「なんだ、知り合いか谷崎」
事務所内を見渡す。
襲撃に際し備品が壊れてしまっているし、小物や雑貨が散らばっている。