第2章 かの女
女──綴は、目の醒めるような青いスカートをひるがえしてたたずんでいた。
ここはポートマフィアの拠点、その屋上。ヘリポートとともに喫煙所と、そして小さなスペースがあるのみ。けれどもここから見おろすヨコハマの夜景が、綴のお気に入りだった。
「やっぱりここにいやがったか」
柵に身を委せ、綴はその声の正体に流し目をくれる。
帽子をこよなく愛する男──
「中也。探しに来てくれたの?」
小さいと揶揄される、けれど綴よりははるかに大きいそのいとしい影に、綴は甘えるようにすり寄った。
「あぁ。首領が呼んでる」
「そっか。なら少しは焦らしても平気だね」
にこにことつれないことを言う綴に、中也は慣れたものだと苦笑した。
「オイオイ、呼びに行った俺が怒られちまったらどうするんだ」
「それは困るけど、森さんはそれをしないよ。あのひとは──
──あのひとは、わたしの記憶が大事だから。わたしの気にふれて、それを失くすことを畏れてる」
だから少しくらい大丈夫だよ、と綴は笑った。中也とそろいの栗色の髪が、風に誘われてさらさらと揺れた。
「ハッ、そうかよ」
そう言って、中也も綴の隣に立った。
決して、〝わたしが大事だからって、言わねェンだな〟とは言わずに。帽子を押さえて風にたそがれる。
「おや。こんなところにいたのかい、綴。そんな帽子置き場よりも、私と一緒にそこから飛び降りよう」
うげ、と綴があからさまに顔をしかめる。端正な顔が台無しだ。