• テキストサイズ

【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第2章 かの女







女──綴は、目の醒めるような青いスカートをひるがえしてたたずんでいた。

ここはポートマフィアの拠点、その屋上。ヘリポートとともに喫煙所と、そして小さなスペースがあるのみ。けれどもここから見おろすヨコハマの夜景が、綴のお気に入りだった。

















「やっぱりここにいやがったか」



柵に身を委せ、綴はその声の正体に流し目をくれる。
帽子をこよなく愛する男──



「中也。探しに来てくれたの?」



小さいと揶揄される、けれど綴よりははるかに大きいそのいとしい影に、綴は甘えるようにすり寄った。




「あぁ。首領が呼んでる」

「そっか。なら少しは焦らしても平気だね」






にこにことつれないことを言う綴に、中也は慣れたものだと苦笑した。








「オイオイ、呼びに行った俺が怒られちまったらどうするんだ」

「それは困るけど、森さんはそれをしないよ。あのひとは──














──あのひとは、わたしの記憶が大事だから。わたしの気にふれて、それを失くすことを畏れてる」




だから少しくらい大丈夫だよ、と綴は笑った。中也とそろいの栗色の髪が、風に誘われてさらさらと揺れた。






「ハッ、そうかよ」




そう言って、中也も綴の隣に立った。
決して、〝わたしが大事だからって、言わねェンだな〟とは言わずに。帽子を押さえて風にたそがれる。


























「おや。こんなところにいたのかい、綴。そんな帽子置き場よりも、私と一緒にそこから飛び降りよう」



うげ、と綴があからさまに顔をしかめる。端正な顔が台無しだ。









/ 96ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp