第2章 私は彼の何なのか
でももう、駄目なんだ
見てしまった。彼と、見とれてしまうくらい綺麗に微笑む見知らぬ女の人
目撃してしまっただけなら知らぬ振りを出来たかもしれない。
それならその方が良かった
だけど私は見てしまったのだ
彼の今まで見たことのない顔を
彼のあんな顔、初めて見た
私には見せたことのないであろう、愛おしそうで、少し頬の染った表情
私が見たことのない表情を、あの人は見ているんだ
"恋人"の私が知らない表情
悲しいとか、羨ましいとか、憎いとか、そんな言葉よりも先に頭に浮かんだのは
酷く虚しい。
それだけだった
わかっていた。彼と恋人らしい事をしたことがない
私はそれを気にしないと言った
嘘だけれど
本当は、恋人と言えるようなことがしたい
一緒にデートして、買い物に付き合ってもらって、疲れて帰ってきたらご飯食べてくっついて2人で寝る。
そんな普通を経験したかった
恋人らしい事をしなくても、愛されていると思っていた。思っていたかった
だけど違ったのだ。所詮、私の一方通行だった
馬鹿みたい。態度から好きじゃないことなんてわかりきってるのに、私を好きでいてくれているだなんて
勘違い、していた
思えば行為中も彼が私の名前を呼んでくれたことがなかった
会っても素っ気ない。私といても楽しくないとでも言いたそうな表情
付き合った当初は私からデートに行こうと誘ったりもした
まあ断られたけれど
もう私が誘うこともなくなってしまった
無理に誘って嫌われたくない
実際は嫌われるどころか好かれてもいなかったけれど
普段は回らない頭でも冷静に考えられるとは
恋人が他の女の人といる所を見ても普通でいられるなんて、私も彼をそこまで好きじゃなかったのかも
嘘
好きだ。大した思い出もない彼との記憶を探して、今目に見えるあの光景から必死に気をそらそうとするくらいに
好き。好きなんだ
私から別れを告げなければずっと続くと思っていた
でも彼のあんな表情を見てしまったら、私が彼の前から消えるしかないじゃないか
と、小さな声で呟いた
途端、涙が溢れてしまう