第1章 太陽の光のもとに鳥は飛ぶ【笛・尾形智】
試合は、惜しくも岩工の負けに終わった。これで、尾形ら三年の中学サッカーは終わった。羽実は校門で先ほど撮った写真を見ながら尾形を待っていた。画面に映る彼は、真剣で、時に笑顔で、とても輝いている。
「あ…真藤さん」
声をかけられて顔をあげると、尾形がいた。
「お疲れ様、尾形くん」
「…ありがとう。姿が見えなかったけど、どこにいたんだ?」
「屋上」
「お、屋上?」
戸惑う尾形に羽実は小さく笑う。
「知り合いにこっそり入れてもらったの」
「…なるほど」
「私、びっくりしちゃった。尾形くんって、サッカーするときいつもと違うのね」
「そう…かな?」
「うん、プレイ中の尾形くん、すごく輝いてた。撮ってて、すごく楽しかった」
え、と尾形の口から漏れる。人は撮らないと言っていたのに。
「ぐいぐい引き込まれてね、いつの間にかシャッター押してたの」
羽実が笑う。尾形はその笑顔が自分に向けられていることを嬉しく思い、切り出した。
「俺、高校でもサッカーするよ。やっぱりサッカーが好きだから」
「そっか」
素っ気ない一言だが、その声色から喜んでくれていることを尾形は感じ取った。
「なら私は、鳥を撮ろうかな」
「鳥?」
首を傾げる尾形に羽実が微笑みかける。
「尾形智っていう鳥」
「え…」
「久しぶりだったの、人を撮ってて楽しいって思えたのは。鳥みたいって思ったのは初めてだったし。これからも、尾形くんを撮って行きたい。だめ…かな?」
羽実のおそるおそるの問いに、尾形は首を振った。
「そんなことない、嬉しいよ」
言うと羽実は、よかったと笑った。眩しいな、と尾形は目を細めた。