第9章 所縁あるもの、北の地への出陣
「いくらいち早く気がついたからって、勝手に飛び出していい理由にはならないんだからね?危険なのがよくわかった?貞ちゃん」
「…おう」
悠青に手入れをされながら、太鼓鐘貞宗は燭台切光忠よりお叱りを受けていた。
「今回は小十郎さんが狙われてた側だったから上手くいったけど、政宗公が狙われてたら、助けられなかったかもしれないんだ」
「…うん」
「貞ちゃんはとくに顕現したばかりだし、しばらく一人で行動は、」
「よし、こんなもんだろ」
燭台切光忠の言葉を遮るように悠青が言葉を発する。燭台切光忠は思わず口を噤んで彼を見た。
「ほうれんそう、ってわかるか?」
「…野菜の?」
太鼓鐘貞宗が悠青を見ながら答えると、彼は「そうだけど違う」と返した。
「組織における大事の略語だ。報告、連絡、相談」
「報告、連絡、相談…」
「このみっつが成り立たなければ、組織はうまく回らない。それは俺達も同じだ」
悠青は手入れ部屋にいる面々を見渡す。
「いくら強い刀がいても、一人でできることは限られる。反対に言えば、少しばかり欠けた部分があっても、知識や考えを持ち合い協力し合えば、できないこともできるようになる」
「…難しいんだな、人間って」
「そうだな。20数年人間やってる俺でも、人間ってのは難しい。言葉では簡単に言えても、うまく成り立たないことが多いのも事実だ」
だから、と続け、悠青は太鼓鐘貞宗の頭を撫でた。
「よく学んで、よく考えて、一緒に戦って行こう、貞」
「〜〜〜っ、おうっ!」
人の身を得て多くの事を感じ、考え、行動する。その大変さと大切さ、面白さを知った太鼓鐘貞宗であった。