第4章 帰らぬ人
◯◯◯
"俺の代わりに…皆を救ってやってくれ"
突然目の前に現れた、顔の見えない彼は言った。
優しく包み込むポカポカとした陽気。
辺りは桜の花びらが舞っている。
『貴方は…?』
そう聞いてみたが、彼は小さく笑うだけだった。
"近い内に会う事になるさ"
近い内?
と言うことは政府の関係者か刀剣男士、それか他の審神者といった所か。
いや、そもそもこれは私の夢の中。
"…頼んだぞ…主よ"
彼がそう言うと私の周りに桜の花びらが渦を巻いた。
『!…うっ…』
あまりの突風に顔を腕で覆う。
必死に薄目を開け、姿が消え行く彼に手を伸ばす。
『待って!!』
◯◯◯
『っは!』
パチッと目を開くと、そこには歪んだ木目の天井が飛び込んできた。ぼやけた視界で見渡した先には、日の光に照らされる見馴れた自室があった。
はぁ。やけにハッキリとした夢だったな。
思い返せば先程見た夢は、感覚も声も普段の夢とは違ったように感じた。そして最も気になったのが、最後の言葉。
私の事を主と呼んだ"彼"は誰だったのか。
『まぁ、夢だし』
と最終的にそう考えた私はのそのそと起き上がった。
誰かが敷いてくれた布団に私は寝かされていて、足首には湿布らしきものが貼られていた。擦り傷のあった所には、絆創膏が貼られていた。
ふと視線を上げると自分の他に二人、段ボールにもたれ掛かって座り込んでいる事に気付く。
机に置いてあった眼鏡をかけて確認すると、山姥切さんと薬研だった。
『座って寝てるし。よく寝れるなぁ』
布団から出た私は二人を起こそうと肩を揺らした。
『あの、起きてくださーい。山姥切さん。薬研。身体痛めますよー』
ゆっくり揺り起こすと二人同時に目を開いた。
『あっ、おはようございます』
「あんた起きて…!?」
『あはは、すみません急に寝てしまって。驚かれましたよね』
「ははっ。ま、初見は驚くよな。大将体調の方はどうだ?」
足首の痛みはもう無いし、怠さや疲れはない。
その事を薬研に伝えて、薬研に足首の様子を見られたり脈拍などを取られた。
「うん、特に問題はないな。だが今日は安静にしなきゃ駄目だな」
『え、何で?問題は無いんでしょう?』
と言った途端、薬研の眉間に見る見るうちに皺が寄っていく。