第3章 蔵
山姥切さんは一度私に目を向けて、ストンと床に座った。その表情はやけに暗く、それに私は不安を抱いた。
『山姥切さん?もしかして、どこか調子が悪いんですか?それでしたら今日はもうお休みして頂いても』
「違う」
『…?』
「これを、あんたに言うか…迷っていた」
山姥切さんは顔を上げ、今度は何かを決心したように真剣な表情で言葉を続ける。
「あんたが落ちた穴は、恐らく鶴丸が掘った穴だと思う」
『鶴丸さんが?』
まさかの鶴丸の登場に廉は驚いた。
鶴丸さん。何であんな本格的な落とし穴を掘ったんだろう?しかもあんな場所に。
「俺にも理由は分からないが、どうか鶴丸の事を許してやって欲しい!!」
『ちょ!?』
「主に怪我を負わせたのは、許されない事だと分かっているが…どうか頼む!!」
なんと私の目の前で山姥切さんが思い切り頭を下げたのだ。私は再度驚きを受ける。
山姥切さん、そこまで鶴丸さんの事を。
『わ、分かりました!許します!だから顔を上げてくれませんか?』
私は山姥切さんに顔を上げるように言うと、山姥切さんは恐る恐る顔を上げる。
「本当に、許してくれるのか……?」
『はい。山姥切さんにそこまで頭を下げられたら仕方がありません。それに落とし穴に落とされた位で、私は怒りませんよ』
はははっと私は軽く笑った。すると今度は山姥切さんが目を見開く。
これは…本気で鶴丸さんと話さなくてはいけないな。山姥切さんの思いもあるし、そしてなによりも私はこの本丸の"主"なのだから。
山姥切さんはホッと息を吐くと、安堵の表情を見せた。
その表情を見た途端、私の中でギリギリまで張っていた糸がプツリと音を立てた。
私は畳の上に崩れ落ちる。
「主!!?」
『あ、れ?どうやら電池切れみたいです』
「でんち、切れ?」
『んー、眠いので…寝ますね。ご飯出来たら……教えて…くだ、さい』
「お、おい!」
山姥切さんの声が辛うじて聞こえた。
しかし段々と重くなっていく瞼に、私の視界と意識は静かに沈んで行った。